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「ルイ、大丈夫か」
一人掛けのソファーに三角座りをして、膝に額をくっつける瑠依に声をかけると、黒い髪の先が僅かに揺れた。
竜二は瑠依を見詰めて、奥歯を噛み締める。なにを言葉にしても、瑠依には届かない気がした。
松ヶ崎が帰ってから、10分が経つ。
「……お前のせいじゃ、ないからな」
真実そう思っているのに、言葉にした途端陳腐なものになった。
慰めの常套句。在り来たりな言葉。分かっていても、それ以外かけられる言葉が見当たらなくて、竜二は懸命に喉を動かす。
「レイのやつ、いつもそうだったろ。いつも、何処に行くとか誰と行くとか、何にも言わなかった。ちゃんと聞いてたら、レイが殺されなかったって確証があるわけでもない」
瑠依がようやく家に帰って来て、松ヶ崎に、同じように16日のことを話して、竜二は初めて知った。
その日の帰り、駅前で瑠依と麗依が別れたこと。
泊まりに行くと言った麗依が、いつ帰るのかを聞き忘れて、瑠依が21時頃、麗依に電話をかけたこと。その時は、生きていたこと。
麗依が殺された時間のことを考えると、瑠依が電話をかけたのは、麗依が死ぬ間際だった可能性もある。
「お前が電話で、帰って来いって言っても、レイは帰っちゃ来なかったよ。あいつはいつも、そうだったろ」
「でも!」
埋めていた膝から、瑠依が顔を上げた。
小さな瞳は、涙で濡れている。最近の女子校生のように整えられるでもない眉は、悲しいほどに垂れ下がっていた。
「あのときあたしが、注意だけでもしてたら!麗依は殺されずに済んだかもしれないっ!!」
松ヶ崎がいる間は、気丈にも涙を流さず、必死でその日のことを話していた瑠依。
竜二は、手のひらで顔を覆って嗚咽を漏らす瑠依を見て、自分も泣き喚きたい気分になった。
麗依が殺されたことは、本当に信じられないし、悲しい。犯人を殺してやりたい、とさえ思う。
でも、それと同じくらいに。
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