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『強姦された形跡はないって、別のニュースで言ってたわ!』
「じゃあ、なんで!」
『それは分からないけど、麗依ちゃんの事件は強姦殺人事件で取り上げられていないのは事実よ!落ち着いて』
玄関の戸に背中を擦り付けて、力なくしゃがみこむ。
落ち着け、レイは、レイプされたんじゃない。自分に言い聞かせるように何度も脳内で再生してから、竜二は額を手のひらで覆った。
でも、ニュースでも、首を締められて殺されたと言っていた。死因は確定しているということか。ということは、わざわざ司法解剖する必要なんてないんじゃ。
「どういう、ことだよ」
司法解剖する理由があるのかって聞いたとき、あの刑事は、「詳しいことは言えない」と言った。つまり、理由はあるのだ。ただの規律や惰性、よもや、念のために、なんて雰囲気の言い方ではなかった。
なら、なんで。
『竜二、落ち着いて』
「分かってる!」
陸美の声に答える。分かっている。
考えていても仕方がない。一般人の自分が知り得る事実など限られている。
「……分かってる」
『……竜二』
竜二は不意に、帰り際、松ヶ崎に渡された名刺のことを思い出した。「何か思い出したことがあれば連絡が欲しい」と言って、松ヶ崎は、直通の携帯番号が書かれた名刺を竜二に渡した。
一般人の俺が、知ることの出来る情報なんて限られている。
それなら。直接聞くしかない。
玄関のサイドボードに置いてある、桜の花びらがあしらわれた置時計を見ると、時刻は22時を過ぎていた。
「明日、警察に聞いてみる」
『ちょ、ちょっと竜二。下手なこと聞くもんじゃないわ!知らなきゃそれで済むことだって、きっとたくさんあるわよ!』
「だって、納得が行かないことばかりなんだ!そもそも、なんでレイが殺されなきゃなんないんだよ!妬まれることはあっても、恨みを買うようなタイプじゃない!分からないことだらけだ!納得出来ない!!」
声を震わせながら叫ぶと、陸美が黙り込んだ。竜二は置時計を睨み付ける。
知りたい。知らなければならない。
じゃなきゃ、納得できない。
じゃなきゃ、一生自分のせいだと苦しむ奴がいる。
知らなきゃ、届かない。
「無茶はしねぇから、安心しろ」
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