第二章

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 竜二は、白みがかった息を吐き出してから、廊下の突き当たりへと脚を進めた。  麗依の部屋の丁度右側、廊下の突き当たりには、それほど大きくはない窓がある。夜露で湿った窓縁に手をかけると、細やかなすきま風が指先を擽った。  竜二はそこから外を見下ろして、直ぐに1歩後ずさった。まだ夜も明けきらず、窓の外は薄暗いのに、南の方角、玄関がある方向に、人影が見えた気がした。  携帯電話の液晶が光っているのか、自宅前の通りに小さい光が見える。  その光は、顔の輪郭と周囲を朧気に照らし、その人物がカメラを担いでいることを竜二に知らしめた。 「明日から覚悟した方がいいわ」  真摯な声で言っていた陸美を思い出し、竜二は大きな溜め息をつく。  放って置いてくれればいいのに。そう思うが、世間が「分かりました」と頷く筈がない。  現に、陸美との通話を終えたあと確認した携帯電話には、友人からのメッセージがいくつも届いていた。  通知をオフにしているおかげで、それほど困りはしないが、知り合い程度の人間からも、「もしかしてお前の妹?」だのと言ったメッセージが来た。  本気で心配してくれている数人を除けば、他はすべて野次馬根性。  所詮、他人事。  そうだ。当事者でなければ結局、どんなに悲しい出来事も、残虐な事件も、他人事だ。  だからそうやって、平気でいられるんだろう。
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