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「俺は、コンクールを終えて少し学校に寄ってから、家に帰って来ました。夜の8時でした。
そのとき、ルイは部屋で勉強してました。
母は、大学の後、そのまま二日間、東京出張に行くって前から言ってて、その通りいませんでした。なんか、本を出版してるんですけど、それの講演会があったらしいです」
「そのとき、麗依さんは?」
竜二は細く、溜め息をついた。
「……レイは何処かに遊びに行ったみたいでした。土日跨いで、何処かに泊まるつもりだって聞きました」
「聞いた、というと?」
「ルイから聞きました。俺、その日コンクールの打ち上げで、荷物置いて直ぐにまた家を出たんです。9時過ぎだったと思います。
そしたら、打ち上げ会場に着いたくらいに、ルイから電話がかかってきて、レイの外泊のことを知りました」
「どうして瑠依さんは、わざわざ電話をして来たんだい」
「たぶん、心細くなったんじゃないですかね。今日帰らないんだっけ?って、聞かれたから。
レイもいないなら、ルイ、家の中に一人でしょ。ロイはいるけど」
「ロイ、って言うと、飼っている犬だったね」
「はい。レイが随分前に拾って来て、庭で飼ってるんです。世話はほとんどルイがしてますけどね。結局、ルイにばっかり、なついてます。
その時も、電話越しに、ロイの鳴き声が聞こえました。家の中一人で心細くて、ロイと遊んでたんじゃないですかね。そういうとき、たまに電話してくるんで」
「なるほど。確かにこの家に、17歳の女の子一人だと、心細いかもしれないね」
松ヶ崎は、数回頷いてから、少し視線を上にずらした。視線は高い天井にぶつかり、今いるリビングを満遍なく這った。
言わんとしていることは分かる。家族四人が暮らすには、いささか広すぎる家。
友達や彼女から、豪邸、なんて言われることもあった。
竜二が中学2年生のときに、両親が離婚してから、母親が買った中古物件だった。
兄妹3人とも引き取った母親の、プライドだったのだろうと思う。
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