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プロローグ
それに出会ったのは、本当に偶然だった。
ノートパソコンの画面に現れた、フード付きの黒いパーカーを着ている人物。
投稿された時間は、僅か二分前。気が向いたときに時おり開く、誰もが知っている動画サイト。
数え切れないほどの動画が投稿されるその中で、たまたま目に止まっただけだった。特に意図して、それを再生した訳ではなかった。
何の気もなく再生ボタンを押すと、準備中を表すマークがくるる、と回転する。黒いパーカーの首元についたフードを口元まで被ったその人物は、ようやく、といった体で動き出した。
ノートパソコンに繋げたイヤホンから、鼓膜に向けて音が溢れ出す。
聞いたことのない曲だった。特に何のコメントも書かれてはいないが、恐らく自作の曲なのだろうと思った。その人物にあつらえたような曲だった。
前奏を経て、唯一見える薄い唇が動く。それに伴い、唄が流れはじめた。
中性的な声。水が音階の表面を撫でるかのように透き通ったその声に、暫し聞き惚れた。プロかアマチュアかも分からないが、酷く耳障りの良い声だった。
「男か女か知らんけど、上手いな」
不意に画面上に、ゴシック体の白い文字が浮かんだ。画面左側へ流れて行くそれを目で追う。
その文字が完全に画面からフェードアウトし直ぐにまた、違う文字があらわれた。
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