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プロローグ
五月も既に下旬、梅雨を目前にして廊下には生温い空気が漂っている。この季節の空気は体に纏わりついてくるようで気持ちが悪い。つい先日までの涼やかな春の陽気が恋しい。これから梅雨本番に突入することを思うと気が滅入った。
日本の四季は美しいと言うが、正直春と秋があれば十分である。夏と冬は極端すぎる。無駄に暑いのも、無駄に寒いのも御免である。何事も程々が一番だと思う。例えば、ツンデレもツンとデレの絶妙なバランスが……。いや、これは例として相応しくないか。
のんびりと廊下を進んでいると、エナメルバッグを脇に抱えた坊主頭の男子生徒や、身長に不釣り合いなギターケースを背負った女子生徒らが、次々に俺のことを追い越していく。皆部活に向かっているらしい。かく言う自分も部室に向かう途中なのだが。
向かうのは、旧校舎二階の西の端に位置する小さな教室である。いや、教室と呼ぶにはあまりにも粗末である。物置部屋あたりが妥当な呼び方かもしれない。実際つい一ヶ月前まで物置扱いだったのだ。物置と呼んでも罰は当たるまい。
物置部屋の主な住人は二人である。一人は俺。もう一人は座敷童である。いや、別にオカルティックな話ではない。旧校舎の人知れない教室で、平凡な男子高生と孤独な座敷童(美少女)との恋物語が始まったりはしない。
座敷童は俺が勝手につけている綽名だ。理由は初めて会ったときの印象が座敷童だったから。勿論心の中だけである。決して口に出したりはしない。本人に言ったりしたら激オコ間違いなしである。
座敷童と言えば、多くの人は日本人形をイメージするのではないだろうか。「日本人形にそっくりだよね。雛壇に飾りたいよ」なんて言われて喜ぶ女性はさすがにいないだろう。彼女いない歴イコール年齢の俺でもそれぐらいは分かる。
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