第1章

4/22
前へ
/36ページ
次へ
 どうせ間に合わないとのんびり歩いて音楽室に辿り着くと、音楽室の入口で音楽教師の斉藤利政[サイトウトシマサ]が仁王立ちしていた。 「本野、終学活後ダッシュで来いと昨日言ったばかりだと記憶しているが」 「あ、あの、あのですね。長谷川先生が――」 「言い訳無用。約束通りアイアンクローをプレゼントしてやろう」 「いえ、いりませ、ああ、痛い痛い痛い痛いっ!」  言い訳する間もなく、頭がぎちぎちと締め上げられる。ミシミシと音を立てているような気がする。今何か綺麗な川みたいなものが……。 「これに懲りたら、次からは全力疾走で来ることだな」  一瞬にも数分にも感じられるような地獄の時間が終わる。危うく現世にグッドバイするところだった。まだ頭がずきずきと軋んでいる。 「斉藤先生、これは体罰では」 「体罰とは失礼だな。こんなにも愛で満ちていると言うのに。溢れんばかりの愛が伝わってないのは悲しいことだ。これはもう伝わるまでやるしかないか……」  斉藤先生はそう言いながら再び頭に手を伸ばしてくる。 「ああ、伝わりました! 斉藤先生の愛は死ぬほど伝わりました!」  これ以上痛めつけられる訳にはいかない。脳細胞が死滅してしまう。必死で訴えると、斉藤先生は満足そうに微笑んで音楽室の中へ入っていた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加