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どうせ間に合わないとのんびり歩いて音楽室に辿り着くと、音楽室の入口で音楽教師の斉藤利政[サイトウトシマサ]が仁王立ちしていた。
「本野、終学活後ダッシュで来いと昨日言ったばかりだと記憶しているが」
「あ、あの、あのですね。長谷川先生が――」
「言い訳無用。約束通りアイアンクローをプレゼントしてやろう」
「いえ、いりませ、ああ、痛い痛い痛い痛いっ!」
言い訳する間もなく、頭がぎちぎちと締め上げられる。ミシミシと音を立てているような気がする。今何か綺麗な川みたいなものが……。
「これに懲りたら、次からは全力疾走で来ることだな」
一瞬にも数分にも感じられるような地獄の時間が終わる。危うく現世にグッドバイするところだった。まだ頭がずきずきと軋んでいる。
「斉藤先生、これは体罰では」
「体罰とは失礼だな。こんなにも愛で満ちていると言うのに。溢れんばかりの愛が伝わってないのは悲しいことだ。これはもう伝わるまでやるしかないか……」
斉藤先生はそう言いながら再び頭に手を伸ばしてくる。
「ああ、伝わりました! 斉藤先生の愛は死ぬほど伝わりました!」
これ以上痛めつけられる訳にはいかない。脳細胞が死滅してしまう。必死で訴えると、斉藤先生は満足そうに微笑んで音楽室の中へ入っていた。
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