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「わあー、凄く綺麗」 ガラガラと 何台もの車がゆっくり 雪の前を通り抜けていく 貴族のお姫様が 乗っていると思うと 煩い車輪の音さえ 優美に聞こえる 牛車の後ろを歩く 従者たちを 憧憬を込め見送り 「いけない。食料を集めなきゃ」 真っ黒に汚れた手で へなりと 萎れた草を丁寧に抜き 薄汚れたカゴへと   入れていく あ! 踏まれずに残ってる お腹の子に 食べさせてあげよ 生まれくる我が子を 思い浮かべ 緑の草に手を伸ばした 「コラ!」 「ギャッ」 栄養が足りず 赤茶髪を掴まれ後ろに 引っ張られた 髪を引かれた勢いで 体が後ろに倒れ カゴまでひっくり返る 「痛い! ババァ、雪の髪を放せ」 「ババァだって!? この腐れ遊女め」 目をつり上げた女が 細い雪の肩をおさえつけ 力任せに髪を引いた ブチブチと 恐ろしく響く音に 「止めて」 女の手を殴った 「痛っ! くそ遊女が」 カゴを蹴飛ばし 悪鬼の形相で 草を踏みにじっていく 女に しがみついた雪を 振り払い 「ウチの亭主からせしめた金は、どうした! あれは、ウチの子の稼ぎだったんだよ!」 大声で怒鳴った 「そんなの知るかい! 雪だって金が要るんだ」 女の同士の 争いを見かねたのか 車が停まり 中から男が 優美に降り立つ 「これ、止めぬか」 色白の ぽっちゃりした顔に 美しい化粧を施し 気品と華を纏う男に 見下ろされ 女と雪が呆然と 高貴な男を見上げた この人・・・・・・ 雪を助けてくれたわ 頬を染めた雪と対照的に 「チッ」 女が舌打ちして 不快を示した
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