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妖しい色香を放つ 瞳を潤ませ うっとり男を見詰める 雪を指差し 「アンタ、馬鹿じゃないのかい。遊女を助けてどうしようってのさ」 「見苦しい真似を捨て置けば、我が妻の腹に障る」 ズキッ、胸が痛むと同時に 男に対し 腹の底から憎しみが 湧いてくる 子を身ごもったと 亭主に報告した途端 離縁された 「誰の子か分からぬガキを、育てられるか!」 雪だって好きで遊女に 身を窶した わけじゃない 「なあ雪。美味いもん食いてぇんだ。な? ちょっと他の男とやってくれよ。俺のためだと思ってさ」 男に請われ 仕方なく身を売ったのに (まただ! また裏切られた) 優しい振りをして 雪の心を惑わし あっさり 背を向け立ち去っていく 着物の裾を持ち上げ 全力で走った 呆気にとられ 反応出来ない従者を押し退け 一番豪奢な 女車の窓を開け放つ 「キャー!」 「女ーーッ! 何をしておる」 ドン!  従者に突き飛ばされ 腹を強く蹴られた 「お腹の子! 雪の子が死んでしまう」 ズリズリと 地を這いながらドロリと 血が流れ出ていくのを 感じた 許さない! 許さない! 愛された女の腹へ 怨念を籠めていく その子が愛した者の命 「必ず! 奪い去ってやる!」 残酷に、冷酷に 「殺してやる! 殺してやる!」 流れ出た血を指にとり 舌で舐めた 「怨霊どもよ! 雪の身に宿り給え」 辿り着いた 平安京の外れにある ボロボロの小屋で 静かに息絶えた 雪の体は 何年経っても腐ることなく 笑顔で 横たわっていた
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