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顕安(あきやす)の名は
偉大な父
冷皇天皇が名付けてくれた
身分高く
安らかな人生を
送れるように
この名を呼ばれるたびに
両親の愛を感じ
胸がくすぐったくなる
《ビンビンビン》
太く低い弦打ちの音
僧たちの加持祈祷に混ざり
僅かに届く
義母姉の声に
励まされ
頑張らないと・・・・・・
「顕安ーーッ! 怨霊なんぞに負けるでないーーッ!」
義兄上様ったら
「花山帝。お立場をお考え下さいませ」
「離せ! 馬鹿者! 兄が義弟に憑いた怨霊を祓って、どこが悪い!」
ゼェゼェ、ハァハァ
吐き出す
苦しい息の中
腹違いの
長兄の顔を思い浮かべ
くすっと笑う
「花山天皇様のお声、顕安様に届きましたか。早う元気になり、安心させて差し上げましょうぞ」
義兄上様、花山天皇は
母の親族をなくし
後ろ立てのない
義弟のぼくを
気にかけて下さってる
だからって
清涼殿を抜け出し
土御門第に
来られるなど
思いもしなかった
「よくぞ無事に、10歳まで成長して下さいました。元服の折も、伊勢が顕安様の衣を仕立てますからね」
ぼくの成長を
涙を流して
喜んでくれてた浮母の伊勢
ぼんやりした意識の中
片時も離れず
励ましてくれる
伊勢の手を握った
ありがとう。伊勢
ぼくの乳母になったせいで
寝不足でしょう?
苦労かけて
ごめんね
ぼく、弱くてごめんね
鳴り響いていた
弦打ちが
プツンと止んだ
ぼくから離れなかった
伊勢までも
息を殺し
そうっと御簾から出ていく
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