第1章

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「失礼いたします。晴明、参上仕りました」 はるあきら・・・・・・ 陰陽師の安倍晴明様だ! 花山天皇のお子を 身ごもったまま 女御様がみまかったのは ぼくにかけられた 呪が原因 「確かに、顕安様に呪はかけられてます。が、女御様とは別。極端な寵愛を妬んだゆえの呪詛でしょう。もう一度、占ってみられよ」 僧や陰陽師たちの 未熟さを批判し ぼくを 庇ってくれた人 「頼む! この通りだ晴明。顕安にかけられた呪を、といてやってくれ」 衣の擦れる音がした まさか・・・・・・ ぼくのせいで 義父上様は 右大臣ともあろうお方が 頭を垂れてらっしゃる!? (お止め下さい! 義父上様) 喉から僅かな空気が 出るだけで 胸の思いを言葉として 紡ぎ出せない 起き上がろうと もがいても 綿入れさえ動かせない 不甲斐なさに 涙が頬を伝い落ちた 「頭を上げなさい。政に責ある者が額を地につけてはならぬと、申し上げた筈ですぞ」 呆れ果てた声で呟き 床を ピシッと叩いた あ・・・・・・、凄い 御簾を突き抜け 侵入したカラスが 《ジュッ》 音を立て消えた 「頼む晴明。お前しかおらぬのだ」 ぼくにかけられた呪は 怨霊に呪われ 母方の親族を失う 怖ろしい呪 (けれど、晴明様が否定してくれた。呪ではなく、元々の運命であったと) でも・・・・・・ 「顕安様は、元服をお迎えになること、難しいかと」 僧や陰陽師たちの 晴明様を 伺い見ながら仰った 占の結果を 否定しては 下さらなかった 残念だなぁ・・・・・・ 外の世界を知らぬまま 眠りにつくのは 「養子に出すお覚悟を、お決めになりましたか」 「顕安が苦しまず、生きれるならば」 義父上様・・・・・・ ぼくを 育てて下さるだけで ありがたいのに 何とお礼を 申し上げれば 良いのだろう 「お約束します。呪の本体を滅すれば、幸せな人生を歩まれると」
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