第1章

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鳥の囀りに、目が覚めた 鼻孔をくすぐるのは 芳しい香ではなく 新緑の匂い ・・・・・・・・・・・・あれ?  そっと、ぽかぽかと 温かい胸に 手を置いてみた 咳も出ないし 息も苦しくない 「伊勢。ねえ、聞いて伊勢」 ぼく、苦しくないよ ぱっちりと目を開け 喜んで 笑ってくれる人を 捜そうとして 思い出した ぼくは 養子に出されたのだ お優しい 穆子義母上様と伊勢 優しくお強い 倫子義姉上様 「はあ!? 相談もなく養子に出すとは、何と責任感のない! ダメ親父めがっ!」 ・・・・・・言ってそう 起き上がり 新しい義父上様に ご挨拶を しなくては 「・・・・・・何? これ」 手に触れた床の感触は 木板じゃない 暖かくて 好い匂いのする床を ぺたぺた触る ほっぺ・・・・・・ ぺたんと床に 頬を当てた うわぁ、気持ちいい 「失礼する」 だれ? 低く艶っぽい男の声は 昨晩聞いた 安倍晴明様とは違う 「そのままで、無理に起き上がろうとするな」 肩に垂れかかる黒髪を 歩くたびに 緩やかに揺らし 涼やかな目を細め 心配そうに 眉を寄せた 綺麗な面立ちの男が 「ぶはっ、くくく。可愛らしい頬に、畳の痕がくっきりついてるぞ」 褥の脇に膝をつき 手に持っていたお盆を 床に置いて ぼくの 背を支え起こしてくれた
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