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「きれ・・・・・・い」
だった
身に纏う衣は
下働きの者のように粗末
・・・・・・だけど
衣は汚れてないし
肌も艶々して美しい
「綺麗って、俺が?」
くすりと笑う男の
ぼくを見下ろす
笑みを含んだ優しい目に
ほっとした
「えっと・・・・・・この邸の主は?」
主は、晴明様ですか?
この床は何?
あなたは、だれ?
伊勢はどこ?
ぼくの胸が
苦しくないのはなぜ?
尋ねたいことが
ありすぎる中で
一番重要な質問から
問い掛けてみる
「ここは左京北辺三坊、官人陰陽師安倍晴明邸。俺は弟子の鬼一、法師陰陽師だ」
「法師陰陽師?」
優しい指が
ぼくの頬に触れ
「法師とは、官僚の師匠と違い内裏に出仕しない、個人陰陽師という意味」
すうっと撫で上げてくる
「んっ、くすぐったい」
きゅっと肩を竦め
身を捩った
「他には? 例えば、思わず頬を当てた床は何? なぜ咳が出ないの? とか」
・・・・・・・・・・・・うう
ぼくの顔を
覗き込んできた鬼一の目
面白そうに笑ってる
しかも
ぼくの考えなんて
バレてるし
「そう膨れるな。この床は、畳という」
「畳?」
「原料は干した燈心草。アキの咳病には、板敷の床より畳の方が良い」
「咳病? 怨霊にかけられた呪ではなく、病?」
艶やかに微笑み
頷いた鬼一が
「怨霊の話は、薬湯を飲んでからだ」
ぼくの前に
湯呑みを差し出してきた
「咳病には、これが効く。残さずに飲みなさい」
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