140人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんな必要があるか? 進藤 アサ子の脱落を避けたい人間ってのは一人だろ」
「まぁ、そう言われればそうなんですけど……」
宮本は不満げに唇を尖らせた。
ほぼ確信を得ても白黒を明確にしなければ気持ち悪いのだ。
山田の告白によって何かが大きく変わるかもしれないと待ち構えていた時間は、ただ平凡に正常の流れへと戻っていった。
***
天国島の空に、暗雲がかかりはじめた。今にも雨が落ちてきそうである。
「大丈夫かい。お嬢さん」
黒川は、膝を抱えて座っているアサ子に声をかけた。
アサ子は洞窟に戻ってから、ずっとこの調子だった。何をするでもなく、肩を落として座ったまま。
――自分への2票が、そんなにショックだったかねぇ。
黒川は思いながら、救急箱の中身を物色した。
消毒液、包帯、それに絆創膏……。
ありがたいのはハサミがあることだ。
「心にもない事を聞かないでよ。私に心配するフリなんかいらないわよ」
最初のコメントを投稿しよう!