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彼には殺人を愉しんでいるような雰囲気は無かった。
怒りもない。
悲しみもない。
恨みも、歓びも……。
彼は無の境地にいるのだ。
喘ぐアサ子を、虚ろな目で見下ろしているだけ。
アサ子の意識が遠のきそうになった瞬間、ガッと鈍い音がした。
喉元を締め付けていた力が、ふっと緩んだ。
「……ッホ、ゴホゴホッ……!!」
胃液が逆流しそうな喉の違和感と、大量に吸い込んだ空気に混じって肺に侵入した唾液への拒絶反応。
顔中に留まっていた血液がスッと引いていくのを感じるのと同時に、頭痛が走った。
その苦痛のさなかにアサ子が目にしたのは、ドサッと地面に倒れた住田 和也の姿と、その後ろに浮かぶ巨体だった。
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