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「篠山さん、篠山さぁん!!」
アサ子は森に入った。
繁み掻き分け、木々の間を抜けた。
徐々に闇が迫っている。
視界が悪い。
引き返すかと仕方なく足を止めた時、突然、背後から現れた手がアサ子の口を封じた。
「ンーッ……ンンーーッッ!!」
「静かにして。僕はうるさいのが嫌いなんだ」
耳元に感じた吐息に肌が粟立った。
篠山でも、黒川でもない若い男の声。
姿が見えなくても住田 和也だと判った。
背中に重いものがのしかかってくるような恐怖だった。
「僕は手を離す。でも大きな声はやめて。いい?」
唇が耳たぶに触れそうな程の距離で聞こえる小さな声だ。
アサ子は小刻みに何度も頷いた。
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