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恐怖は人を従順にする。
今逆らわなければ何もされないんじゃないかと思い込む。
しかし、アサ子は知っていた。
かつて、礼二に生爪を剥がれた時もそうだった。逆らわずにいた。そうすれば解放されるんじゃないかと誤った考えを持った。
彼らにはスイッチがある。衝動的に何かが変わるスイッチが。
アサ子は、口元を覆われていた手の力が緩んだ瞬間、背中で住田 和也に体当たりし、彼が怯んだ瞬間に駆け出した。
「篠山さぁァアアん!! 黒川さぁァアアんっ!!」
助けを求めた。
記憶が甦るのだ。アノ光景が、浮かび上がる。
赤く染まった住田 和也の顔。
懐中電灯がぼんやりと照らしたアノ顔は、暗闇に赤く浮かんでいて、ぬめった唇が光っていた。
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