PROLOGUE

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「特別な教育を受けていないにもかかわらず、菊池栄一郎は天才だった」というのが、もはや文明国の常識であった。  世界にそう思わせたのは彼の発明である。「パルスチェンジャー」と呼ばれた彼の発明は、人の意識をデジタル化させることに成功したのだ。この発明は世界に希望を与えることになった。  まず、所謂「植物人間」とのコミュニケーションを可能にしたのだ。患者と会話者の双方の意識をデジタル化し、同じサーバーに送る。そうする事で二人は、対等な立場で会話をすることが出来たのだ。  被験者となったのは66歳の男性だった。現実では小指一本でさえ動かすことのできない彼は、バーチャル空間では限りなく自由だった。彼はそこで自分の妻と娘と抱き合い、喜び、泣いた。彼の喜びは一大ニュースとして世界中に広まった。  植物人間の次は視覚障がい者だった。その次には事故や病気で立ち上がれなくなった人々を意識を機械に送った。  そこでは彼らは自由だった。再現された世界の色を見て、心行くまで走った。何にも邪魔される事なく親しい人と喋り、遊び、満足した。  パルスチェンジャーは医療の場での躍進が期待され、菊池も勿論彼の持つ技術を惜しみなく提供した。  しかしもう1つ、菊池の技術を惜しみなく受ける企業が存在した。
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