二、魔除剣《まよけのつるぎ》

8/8
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/206ページ
 火水彦は剣の前に立っていた。  鍛冶派の隅で、もう一人の火水彦らしき影が、耳から血を流してもがいている。 『何者です?』  火見は、板壁にもたれた影に剣を向けたまま、心の中で問いただした。  板壁の影が大きくなった。身の丈が六尺ほどの、灰緑色の靄のような影になって立ちあがり、火見の心に言葉が響いた。 『愚かなことを・・・』 『何者です?』  灰緑色の人影は板壁に背を密着させた。身体が壁に同化して姿が消えた。 「兄上!外へ逃げます!」  火水彦は砂鉄の山を跳び越え、入口へ走った。外へ出て、鍛冶場の板壁を入念に見たが、何かがいた形跡はない。 「兄上。あれは?」  剣を持って火見が火水彦の立つ板壁に走ってきた。 「どこにもいない。消えた・・・」  呆然と立ちつくす火見の手の中で、剣の茎が小さく振動した。二つの勾玉もわずかに輝いている。  この剣は、巫女が代々心に受け継いだ魔除剣その物だ!言い伝えに聞く神剣、十握剣だ・・・。
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!