四、神城《かみしろ》

6/6
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/206ページ
 玉速男が手にする神剣の柄は、熱くなかった。細かな振動が何度も柄から鋒へ走り、柄に埋めこまれた二つの勾玉が光を帯びた。光は振動とともに、何度も玉速男の手元から鋒へ移動し、消えた。  玉速男は、鋒へ光が溜まってゆくように思った。 「お館様!天鳥船が屋敷の真上に!」  拝殿の簀子(すのこ)に立つ玉速男の側近、藤茂が、南廂の先を指さした。  突如、床に置いた刀汰の剣が雷を発した。  玉速男の手の中で、真剣の柄が一際強く輝いた。  玉速男は、鋒を神城の喉もとから反らそうとした、その時、神剣の柄から一際大きな光が鋒へ走り、鋒から緑の光球と赤い光球が飛びだした。二つの光球玉は、神城の胸と簀子に立つ藤茂の背を貫き、空へ舞いあがった。一瞬だった。 「頭領!」 「あんたっ!」  刀汰が叫んだ。神城の背後に志津が駆けよった。 「何事もない・・・」  神城はこめかみを押さえ、光に貫かれた胸を見た。袷に変化は見られない。身体がひときわ大きくなったように思え、頭上に表現できぬ気配を感じる。 「この神剣は明らかに、そこに転がっている剣とはちがう・・・・」  神城は床に転がる刀汰の剣を目で示した。剣の雷は静まり唸りも振動も消えている。 「大王は高皇産霊大御神(たかみむすびのおおかみ)の詔によって、儂に神剣を託された・・・」  神城は、ひと月前にさかのぼって話しはじめた。
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!