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六、生業《なりわい》
博労の家の土間は、穀物の叺が天井まで積みあげられていた。土間のすぐ横からつづく板の間へ、土間の奥から、女将の志津はいそいそと酒を運んだ。
志津は屋内で焼く干物の煙に、眼がしみるのもいとわなかった。これで何度目の肴かわからないが、衣の裾を腰にはしょった志津の顔から笑顔が絶えない。衣の袖で涙を拭きながら、忙しく立ちまわわる志津の顔に、笑みが絶えない。
煙が漂う板の間で、志津は神城の器に酒を注いだ。二人の背後に褥が散らばり、思いが満たされた志津の心は、神城が語る苦労話や土産話をおちついて聞くゆとりがあった。
「それなら、日照りだったのに、米のできは良かったんだね?」
「うむ、川という川は干あがっていたが、畑の穀物のできは良かった。噂とちがい、米のできは都よりはるかに良い」
神城は器を口元へ運び、あふれそうな酒を喉へ流しこんだ。
「都の穀物が動かないんで、商売はあがったりだけど、これだけあれば、運脚もまんざらじゃないよ。あんた、この米や粟を政庁に納めるまで、ここに居ておくれ。そうじゃないと、これだけの穀物を、誰が嗅ぎつけるか、わかったもんじゃないからね」
土間に積まれた叺の山を見あげ、志津は酒壷を手に、神城ににじり寄った。
「さあ、飲んどくれ」
志津は、神城が手にする器を手ごと手前にひき、ふたたび、なみなみと酒を注いだ。
「夏の終わりに出かけたあんたが、いつ帰ってくるかは、毎年のことだから、わかっていても、恋しくてたまらなかった。なんどもなんども抱いてほしい・・・」
志津は、酒で満たされる器を、己のように感じた。
器を満たした酒は、いくども神城の口へ消えてゆき、たくましい身体をほんのりと赤く染め、軽い酔いを示した。
三ヶ月以上離れていた志津の心の隙間は、何度か抱かれれば、毎年のように埋まるように感じられたが、今年は何かが妙だった。
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