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二、魔除剣《まよけのつるぎ》
鍛錬した玉鋼が剣の形になった。
火水彦は篝火の下で両刃の長さを確認した。確かに、拳十個分の十握である。火水彦は安堵した。
この剣、どのような物も斬り裂くはず・・・。
突然、鍛冶場がゆれた。
低い音をたてて柱と梁が震え、きしんだ板戸と柱の間から靄が吹きこんだ。茅葺きの屋根裏から、茅と煤が火床と篝火にばらばら落ちてくすぶり、鍛冶場に煙がたちこめた。土間の砂鉄の山は崩れ、山積みされた海綿鉄の玉と、いくつもの玉鋼が音をたてて転げた。
火水彦は、倒れそうになった篝火の三脚をつかんだ。
鍛冶場の揺れが小さくなった。
持っている打ちかけの剣が唸り、震えだした。
鉄床も唸りをあげて震えながらゆっくりその位置を変え、水桶に浸された鉄槌が四方へ水を飛び散らせた。
転げた玉鋼と海綿鉄の玉は、唸りながら生き物のようにゆっくり土間を動き、板壁に立てかけられた大きな鉄槌と鍬と鋤が、がたがた震えた。
しばらくすると、積みあげられた砂鉄の小山が、蟻のようにうごめき、小さなつむじ風のように渦巻いて、雷を発した。
玉鋼の唸りは甲高い音に変わり、細かく振動して、たがいに小さな雷を発し、鉄床と鉄槌は動きを止め、甲高い音をたてて振動した。海綿鉄も身動きを止め、小さな唸りを発しながら、みずから砕けだした。
火水彦が持っている打ちかけの剣も、金属音をたてて細かく振動し、持っていられないほど熱くなった。
火水彦が剣を置こうと、鋒を鉄床に近づけた瞬間、剣がぼんやり緑紫色の光を帯びて、鋒から鉄床に雷が走った。
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