14人が本棚に入れています
本棚に追加
「そっちに向かったぞ!
足止めしろ!」
猪のような魔物が、奈美に向かって突進する。
奈美は生身で魔物を罠のある場所に誘導し、必死に自分の足で駆けた。
風よりも速い魔物の身体…篳篥を降ろしていなければ身体がついていかなかった。
「…っ!」
ぶぉぉん、ぶぉぉん!
魔物は罠にかかり、悲鳴をあげながらそのまま信久の夕食になる。
生々しい光景だがもうだいぶ慣れた。
強者が敗者を喰らう姿…奈美が欲しながら、忌み嫌ってきたもの。
大切にしたために、失ってしまったもの。
「奈美、いつもありがとう。」
穏やかに奈美に微笑みかける信久は、今しがたまで魔物を追い詰めて仕留めた男だとは思いたくない。
今までよくこんな生き物とつきあえたものだ…普通の女の子なら警察に通報している。
奈美は今でこそ大人しいが、昔はかなり我が強かった。
大切なものを守りたいと、多くのものを踏みにじった。
たかがプリン、たかがケーキ。
そんなもののために戦わねばならなかった…彼らを永遠にするために。
だから周りに嫌われ孤立したのだが、このみや風音と信久だけは違った…奈美の過去までも受け入れてくれた。
だから、彼らを支えたいと思った…何があったとしても。
基本的に奈美は譲らない性格であるが、彼らには譲っても良いと最近考えるようになった。
嫌われたくないからかもしれないし、彼らの見ているものも知りたいと思うから。
他人への興味は珍しい。
奈美も少しずつ変化したのかもしれない。
「こちらこそ、狩猟友が出来て嬉しいよ。
こんなのは普通誰にも理解されないからさ。」
本人も自覚している。
最初のコメントを投稿しよう!