恋の化学式

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「…で、何でお前は普通に出汁を取れるんだ。」 私の名前は尊栖坂十郎太。 幼い頃に両親を無くし、施設行きの後に彼女に拾われた。 今は彼女と一緒に生きている。 バレンタインの前日…風音は誰が教えたでもなく、自分で鰹と昆布から出汁を取っていた。 そばには湯煎で溶けたチョコレート…どうやら出汁が味つけになるらしい。 普通に読書をしていたが、ちょっと目を離すとこれだ。 いつもそばにいないと、何をやらかすか分からない。 「あのね、昆布と鰹に含まれているイノシン酸とグルタミン酸が旨味成分になってチョコレートに…。」 どうやら、この情報が知性のつもりらしい。 私は馬鹿は嫌いだがこいつは単なる馬鹿で収まる女ではない。 それに知性を持つ人間は嫌いではないのだ…だが、扱う場所が違う。 「今は化学物質の合成の実験じゃないだろ! お前は普通にチョコレートを作れんのか!」 恋は女を変えるというが、風音がまともになる例はない。 奈美も奈美だ…親友のくせに下手に甘やかすから、一般常識のかけらもない生き物に育ってしまった。 いや、一般常識はあるのだが使い方が別のものになっている。 「どうせなら美味しい方がいいって思って。」 風音はきっと料理本は読んだだろう。 しかし、親切心から余計なオプションが増えるのだ。 まともに本を読むことはない…知識が腐っていく。 だから、私がしっかり教育してやらねばならないわけで。 「…馬鹿かお前は。」 出汁入りチョコレートを食わされたら大惨事だ…こうなったら一緒に作るしかない。
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