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【1】 落下少女 十年前
‐‐勇気って、やっぱ必要だよなあ。
高校の屋上でフェンスの外を見下ろしながら、しみじみそう思う。生きてく上でも大事だけど、死ぬときは特に必要だ。
立ち入り禁止のプレートと、百均の安い南京錠。どちらもいつだって取り外し可能になっているのは、生徒たちのあいだでは常識だった。とはいえ取り立てて面白いものがあるわけではないから、そうそう人が来るところでもない。
私のような、自殺志願者を除いては。
「うう、やだなぁ」
金網に顔を近づけて、グラウンドのあまりの小ささに声を上げる。高層タワーよりも、こういう中途半端な高さの方がリアリティがあって怖い。お昼休みにここに来て、かれこれもう三十分は悩んでいた。
「誰か手伝ってくれないかな」
彩が聞いたら、『こんな時まで優柔不断なんだから』と呆れるだろうか。いや、怒りながら止めるだろうな。まあ、手伝ってくれないことは確かだろう。
意を決して金網に脚をかける。上半身がフェンスを超えたとき、後ろでドアの音がした。
「え……?」
振り向くと、学ラン姿の男子がひとり、不審そうな目でこちらを見ていた。さほど背は高くなく痩せているが、神経質そうな目には威圧感がある。
知ってる生徒だろうか、授業中なのにどうしてここにいるんだろう、先生呼ばれて叱られるかも、などとぐるぐる考えている間に、彼は私のすぐそばまで近づいてきた。
そして、言った。
「おまえ死ぬの?」
いっそ清々しいほどの単刀直入っぷりだった。
そりゃ授業をサボってフェンスによじ登ってる生徒がいれば、まぁ自殺かなあくらいは思うだろう。ただ、大半の人はそのままそれを本人に言わない。言ったとしても、これほどまでの『死ねば?』感は出さない。
「あ、まあ、その予定ですけど」
フェンスによじ登ったまま、私はへこへこと頭を下げた。網ががしゃがしゃと音を立て、剥げたペンキが彼に降りかかる。
「あっそ」
止める気がまるでない。好都合といえば好都合だが、どこか残念なのも正直なところだ。『みんながお前を嫌ってる』と書かれた無記名の手紙は、もしやこいつが書いたんじゃないだろうか。上履きに入った青のラインは私よりひとつ上の三年生のものだが、その後私を見上げたままの視線には、見下すような冷たさしか感じない。
こいつ、ムカつく。
「なに見てるんですか」
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