第1章

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「それは大変でしたね……運ばれたって、病院にですか?」 「えーと、通りすがりの親切な人のところに」  アンダーさん改め、拓海君の視線が痛い。確かに、どう好意的に解釈しても嘘くさい話だ。 「本当だってば。ほら、こことかこことか、いっぱい怪我してるでしょ?」  慌てて手足の包帯を見せる。さすがに彼も信じたのか、疑いの目は心配そうな目つきへと変わった。 「本当ですね……でも、それなら余計心配ですよ。その人に何かされたりしませんでした?」  さすがにキスされたとは言えない。そして、その相手が御堂島だったなんて余計に言えない。 「大丈夫大丈夫、私みたいな地味女なんて何かする気にもならないだろうから」 「ってことは、その人は男性だったんですか?」  彼は驚き、そして呆れたように眉をしかめた。 「いや、でも手当てしてもらっただけだし……」 「免許証なんかをコピーされて、自宅の住所を知られてるかもしれませんよ。ストーカーになったらどうするんです? 病院で目が覚めるまで付き添うならまだしも、見ず知らずの相手を引き取るなんてやましいことを考えていないとやりませんよ」  私が気を失っているあいだに医者に診せたとは言っていた。しかし気を失っていたため、それが本当かどうかはわからない。追求を逃れるため、嘘をついただけということも有り得る。 「分かったよ。確かに私の危機意識が足りなかった。今後は気をつけます」 「いえ、あかりさんを責めたわけでは……」  拓海君が焦ったように首を振る。ふわふわと揺れるブラウンの髪が可愛い。 「ただ、僕は心配なんです。あかりさん、自分のこと過小評価するところがあるでしょう」 「え? どこが?」 「さっき、自分のこと『地味女』って言いました。謙遜って日本では美徳と思われてますけど、分かってて謙遜するのと自分を低く見積もるのとは、表面上は似ていても全然違いますよ」  謙遜、なんだろうか。毎日私は彩を見て、あぁ鼻が高いなとか手足が長いなとか、自分にはないものばかりを感じている。だから自分がどの程度のレベルかなんて嫌でも思い知るわけで、それは謙遜なんてものではなく、彼の言うところの『自分を低く見積もる』行為でもない。客観視。ただそれだけだ。 「そう言ってくれるのは嬉しいけど、あんまりおだてると空気読めないから舞い上がっちゃうよ」
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