-Days.3-

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それはきちんと装丁された本には見えない、古ぼけた羊皮紙を辞書のような厚さにまでまとめた、中世の聖書を彷彿とさせる書物だった。 タイトルも外国語で書かれており、全く理解できない。 「これかい? これは『Aγγελοζ《アンゲロス》』っていう本。原典はギリシャ語で、これは仏訳された本らしい。『Angels』って言えばわかるかな。『使いの者』……つまり天使さ。内容も神による救済を説いたものだった。図書館の隅で埃を被ってたんだけど、興味があってさ。君も読む?」 「い、いえ……遠慮、しときます……」 雑食にも程がある。訳本とはいえフランス語で書かれた、しかも見た目に違わず聖書と大差ない本を読める高校生がいったい日本にどれだけ存在するものか。埃を被るのも納得の代物だった。 「結構面白いんだけどね。明日葉さんもどうだい、いま読んでる救済と革命の章なんてなかなか――」 「ひぃぃ……せ、先輩ぃ、図書館では、お静かに……」 こと、本の話になると怖いほどに饒舌になる。そんな真剣な表情も彼の魅力ではあったが、時々それは牙を剥く驚異ともなり得た。もちろん、ただでさえ本の苦手な私にとって、という条件付きではあったが。 全く図書に関わらない常連、私と先輩のおかしな関係は、ユキ・ユウ・チエの仲良しグループと過ごすこと同様、私の何気ない日常の一部だった。 ――まだ、私は知らない。この何気ない日常の光景が、変容を始めていたことに。私がそれを知るのは、もう少し先のことになる。
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