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しかし、やはりというか、私の側からの質問に答える様子はない。それどころか、独り言を呟き出すに至った。
「明日葉、光莉――HiKari Asunoha――第七と第一の音。性質は……死神の逆位置か。凄い。見込み通りの才だな」
本当に大丈夫なのか?
勿論、これも『頭が』だ。だが、それを実際に私が問いかける事はなかった。代わりに、私は背筋を凍らせる。
歪んだ悦喜を浮かべる表情とは裏腹に、発せられた声はまるで異質、かつ無機質なものだったのだ。先ほどまでの、少し高い少年の声は面影もなく、淡々と発せられる呟きには感情が全く欠落してしまっている。勿論、その内容も私には理解できない。
夏の暑さを原因としない汗が、私の額を伝っていることに気付いた。ここまで来ると、不気味などという感覚で済ませられるレベルではない。
(関わるべきじゃ、なかったかな……!?)
ようやく私はこの結論にたどり着いた。だが既に遅すぎる。目の前で高らかに嗤う少年は、見た目の大きさとまるで釣り合わない存在感をもってそこに在り、相対する私の脚は蛇を前にした蛙の如く硬直してしまっていた。
人間にとって、理解を遥かに越えるものは何であれ恐怖の対象へと昇華する。それは例え、見た目が自分より遥かに小さい少年相手でも同じこと。得も知れぬ恐怖から、私は思わず少年から目を逸らした。
「……え?」
少年の“両肩越しに”、真っ赤な夕陽が“二つ”見える。
ほんの僅か前まで、夕陽は私の右手側にあったはずである。二つとあるはずもない。だというのに今、私の視界は、鏡に映したかのように少年を挟んで浮かぶ、双子の夕陽を確かに認識していた。
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