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「よお、姉ちゃん。失敗だったな! 知ってるか知らないかわかんねーが――悪魔に真名を知られるってなぁ、一番やっちゃいけないことなんだぜ!!」
少年が吠えた。それに呼応するかのように、双子の夕陽がゆっくりと落下する。
地平線でなく地面にぶつかり、真紅の真円は水滴が弾けるように簡単に砕け散った。
紅い破片は肥大して漆黒の泥となり、景色そのものを塗りつぶしていく。
黒ペンキをぶちまけたかのようだ。
道も、家々も、道も、空までも、見慣れた通学路の景色が暗色に喰われていく。
私に唖の音を吐かせる頃には、全てを上書きする色は景色を全て平らげ、見渡す限りを黒一色に染め上げた。
いま周りで起こっていることも、少年の言葉も、私には到底理解できなかった。ただ状況に追いつこうと必死に稼動する私の脳を置いて、状況は劇的に移行していく。
気付けば、黒以外何も存在しない空間に、私と少年だけが取り残されている。
目の前も足元も、私と少年だけを取り残して全て黒一色。ほんの僅かな時間が、こんなありえない状況を目の前に作り出して見せていた。
「これは、何……? 君は、何者なの……?」
瞬きも忘れて立ち尽くす私は、硬直する全身のうち、口だけをようやく動かして言葉を発した。
他に、発するべき言葉が見つからなかった。頭も回っていないのかもしれない。少年はそんな私の質問になりきらない質問に限って、律儀に答えを投げかける。
「言ったろ、俺は悪魔だ」
「あ、悪魔って……」
私は絶句し、それ以上の句が継げなくなった。
常の私なら、悪魔など存在するはずがないと笑い飛ばすところだっただろう。だが、いま周りに起きている“原理の説明できない現象”が、悪魔という非現実的なものへの受容度を引き上げていた。
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