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「……はっ……?」
気が付くと、私は道の真ん中に呆然と立ち尽くしていた。
視界が捉えるのは黒に食い尽くされた空間ではなく、茜色に染め上げられた、通い慣れたいつもの帰り道である。
周りには、特に誰の姿も見当たらない。
足元を見ても、あの厚着の少年の姿はなかった。
「夢、オチ……?」
これは白昼夢というやつだろうか。確か新世先輩が以前そんなタイトルの本を読んでいた。
立ったまま夢オチを経験した女の子ってかなりレアなんじゃないか。そう感じてしまう私はどこかズレているのだろう。
「……ま、そうだよね。あんな悪魔が、いるわけないか」
はははと力なく笑いながら、私はいつの間にか落としていたらしい通学カバンを拾い上げ、軽く叩いて埃を落とす。
ふと右手側の空を見る。周りの空域も鮮やかに巻き込んで染め上げる夕陽は、何事もなかったかのように絶対唯一の存在としてそこに在った。二つ存在する事など、やはり有り得ない。
「……ふふっ」
私は少し自嘲気味に笑うと、再び帰路へと歩みを戻していく。
一人分の靴音が、人気のない帰り道に寂しく響いていた。
天魔が嗤う …To be continued.
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