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気が付くと、そこは青い空も白亜の城壁も花吹雪もない、ごく平凡な教室だった。真夏の日差しが窓越しに内部を焼き、高い湿気が気怠い、お世辞にも居心地が良いとは言い難い空間だ。
そして目の前にいるのももちろん、鳩でも馬でも王子でもない。生徒たちには干し椎茸に例えられる容姿を持つ、無愛想な老英語教師である。
そして私は、机に広げた教科書に突っ伏す形で停止していた。
ずきん。
頭には鈍い痛みが残る。まだあまり回らない思考をフルに使い、その原因を探すべく、顔を上げ辺りを見回す。僅かな間視線を迷わせ、やがて行き着いた先には、目の前に立つ英語教師が手にした分厚い英和辞書があった。
「ようやく起きたか。何回叩いたと思ってるんだまったく……」
しなびた英語教師は、ようやく真実にたどり着きキョトンとした顔をしている私を蔑むように見下し、悪態を突くと、何事もなかったかのように本来在るべき場所・教壇へと戻っていった。
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