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ばたん。
ドアを閉める音が、さほど広くない私の部屋に響いた。私は通学鞄を胸元に抱えたまま、閉めたばかりのドアに背を預け、上喜した息を吐いた。
「……もうこんな時間か。遅くなっちゃったね。もう暗いし、送っていくよ」
時はほんの三十分前。新世先輩は本をしまいながらそう言った。
いつもはあまり遅くならない内に私が先に帰るのだが、話し込んでいてすっかり時間を忘れていたのだ。ただでさえ悪天候で暗かった空は、夜闇に閉ざされ真っ暗闇へと変じている。
先輩と帰るのは、これが初めてだ。というよりも、図書室以外で先輩と一緒に過ごすこと自体が初めての出来事である。驚きと喜びから激しく打ち続ける心臓に痛みすら感じつつ、私は間抜けなほど首を縦に大きく振り続けていた。
暗い帰り道、二つの傘が揺れながら並んで歩く。その道中、私は照れから俯いて黙り込みがちだったが、先輩はそんな私に気を遣ってか、色々な話をしてくれた。
面白かった本のこと、好きなもの、将来の夢、等々。
どれもが今までに聞いたことのない〝先輩についての〟話であり、私の興味を惹いた。
「僕は将来、父さんの後を継いで医者になる。弱った人を助ける希望、太陽のような存在になりたいんだ」
特に将来について話すとき、先輩の目はキラキラと輝いていた。この年齢で明確な将来像を抱き、そこに向かって努力する先輩が、私にはとても格好良く見えた。
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