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「ありがと、ユキ」
「うん。ところで、今日は本当にどうしたの? 土日で何かあった?」
「んー……ちょっと、ね。あ、先輩のことじゃないよ」
真面目な顔をしているユキの向こう側で、チエが焼きそばパンを食べるのもそこそこに、ユウのメロンパンにまで手を出しているのが見えた。
私は本題と今見えた光景、両方に沈んだ息を吐く。
「妙な奴に会っちゃってさ。変なもん見せながら俺は悪魔だーだとか純潔よこせーだとか言って、ゆっくり迫ってくるの。何とか無事だったけど、思い出すだけで怖くって」
「ち……痴漢!? 本当に大丈夫だったの!?」
ユキが手にしていたコーヒー牛乳のパックを握り潰し(幸い中身は空だった)、弾かれるように立ち上がって叫んだ。その様子を見たチエとユウが、果てはクラス全体が、一斉に私の方へと視線を集中させるのがわかった。
あらぬ誤解を招いたことに気付き、全身から冷たい汗が吹き出した。私は慌ててユキの後を追うが如く立ち上がると、両手をぶんぶん振って否定し、全力で誤解であることをアピールしようとした。
「ち、違う! 違うんだってば!」
「ご、ゴメン……言いにくい事聞いちゃって……」
「私もゴメン、ちゃんと話聞いてれば……い、いつでも相談乗るからね」
「だぁーかぁーらぁーっ!」
ユキは本気で青ざめ、衝撃を受けた表情のまま固まってしまった。ユウもチエとのメロンパン争奪戦(もとい防衛戦)を止め、心配そうな表情で近寄ってくる。根は真面目なのが災いしている。
「災難だったな、光莉……生きてればいいことあるよ、ほらこの焼きそばパンやるから元気出せ」
「だ・か・ら! 違うんだってば、話を聞いて! ってか哀れむ感じで肩に手を置くな! あとその焼きそばパンは元々私のだから! そもそも食べかけのやつ要らないし!」
慰めが明後日の方向を向いているとはいえ、チエまでもがこの様子である。
結局、勘違いしたままのユキたちやざわめくクラスの誤解が解けるころには、昼休みが終わってしまっていた。
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