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放課後。
昼休みの騒動もようやく完全に終結し、ユキも正気を取り戻した。残念ながら焼きそばパンが戻ってくることは無かったが。
窓の外は相変わらずの雨模様である。大降りではないが止む気配はなく、シトシトと雫を滴れ続けている。一度は口にしかけた相談の方も、結局あの騒動でタイミングを失い、出来ないままであった。
「あ。そろそろ私、帰るね」
「今日も? ひかりんも健気だねぇー」
ユキはにっこりと笑い、少しだけ悪意のない冷やかしを入れた。ユウとチエも、それを合図にしたかのように笑顔を私に向ける。
「ああ、いつものか。そんじゃね、光莉! ……あ、焼きそばパンごちそうさまな!」
「アンタは謝れってーの。うん、じゃあまた明日ね、光莉ちゃん!」
三者三様の笑顔に見送られ、私は教室を出る。
私と新世先輩の事は、基本的にこの三人しか知らない。そしてこの三人は、なんだかんだ言って良い相談役である。最終的に笑顔で送り出してもらえるのは、やはり心強かった。
水滴に叩かれる窓越しに灰色の空を見上げながら、私は廊下を歩く。一人になると、みんなといる時以上に憂鬱は深まった。
遠い空に、陽の光はない。数日前に見た、暗く歪んだ世界が自然と思い出された。
この数日間、憂鬱の元凶たるあの悪魔が再び姿を現すことはなかった。常識的な思考が、あれは夢だと語っている。
(……違う……)
しかし、あの異様なまでの圧迫感、感じた不気味さ。今でもはっきりと思い出せるリアルな感覚が、夢であるという当たり前を真っ向から否定しようとしていた。
(悪魔なんて、いない……と思いたいけど。じゃあ、あれは何……?)
出口のない迷路を彷徨うように、私の思いはぐるぐると旋回を繰り返した。懊悩に答えを与えてくれる者はいない。あまりに非現実すぎて、三人の親友たちにすら相談して良いものかわからなかった。
雨が強い風に乗って、窓を叩く。
図書館に向かう私の歩は、常の上機嫌ではなく不安に喘ぐ足取りによって、確実に速められていた。
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