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いつしか、窓を叩く雨音が静まっていた。
外を見ると、完全に降り止んだわけではないが、霧のような細かい雫が風に乗って僅かに舞っている、そんな雨模様に変わっている。
「でも凄いですね、先輩。普通の人に読めないものを読んで人に説く、それって神官みたいなものですよね。選ばれた人間ってことですよね!」
興奮に任せて声が大きくならないよう注意しながら、私は言った。
そういえば、こんなに楽しい気分になったのは今日初めてかもしれない。大好きな先輩と一緒に居られるからか、それとも珍しく会話があるからか。どちらでも別によかったのだが、とにかく私は興奮していた。
「選ばれた、人間……か。そうだと嬉しいね」
対する新世先輩も、まんざらではない様子だった。少し頬を赤らめて照れる様は、いつもの笑顔とはまた違う魅力を醸し出している。
「この本のおかげで、僕は天使に愛されたのかも知れないね」
天使に愛された者――先輩にはぴったりだと私は思った。
このとき窓の外には陽光がないにも関わらず、先輩の笑顔が差し込む光に照らされている――そんな風に、私の目は感じていた。
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