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睡魔が邪魔をする。
黒板のちょうど中央上に位置する円盤で時刻を確認すると、正午まであと数分をきっていた。この数分が長いのだ。かといって下手に凝視でもすると、針はまるで悪戯を仕掛けて楽しむ子どものごとく、わざとゆっくり刻んで愚弄する。このカチコチという機械的な音を長時間聴いていると、気が狂ってしまいそうだ。
小宮は、この意地悪極まりない計器から目を逸らし、頬杖を突きながら視線を下に落とす。歴史教師がこれでもかと黒板にぎっしり詰め込んだ文字は、すでに書き写し終えている。
「この問題、わかる人」
「はい! 『退化の改善』です!」
教師の問いに、前席の生徒が透かさず立ち上がり、叫ぶような音量で言った。と同時に湧き起こる、クラスメートからの含み笑い。
次第に目が冴えてきた小宮は、手を挙げて発言した。誰も手を挙げなかったためだ。しかし、小宮が答えるのと授業終了の鐘が鳴るのは、ほぼ同時だった。
歴史教師が教室を出て行くのを見送り、小宮は教材を片付ける。
「今回は俺の勝ちだな! 小宮!」
前席の生徒が小宮に笑い掛けた。さきほど、教師の問に故意に誤答して笑いをつくった、男子生徒だった。
「ねぇ、源戸くん。そうやっていちいち私に突っかかってくるの、もうやめない? だいたい、授業に勝敗なんて関係なくない?」
言葉だけを聞くと冷たい物言いだが、小宮自身は失笑気味だ。
「なんだよ。小宮も楽しそうじゃん」
「楽しくない。ただバカにしてるだけ」
「なんだとぅ!」
二人のやり取りに、またしても教室内が含み笑いで満たされる。
小宮から、源戸と呼ばれたこの男子生徒は、俗にいうお調子者だった。
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