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いい加減に事を済ませ、人によってコロコロと態度を変える。行き過ぎた様は少々鼻につくが、この源戸は場を弁えている分だけまだ許せた。
そして小宮は、彼のそういった性格は不思議と嫌いではなかった。むしろ、ふざけ合える仲として少なからず楽しいものだった。
「じゃあ今回は引き分けか?」
「だからいつ勝負になったの?」
「次の授業では俺が勝ってやるからな!」
一方的に宣戦して、一方的に話を打ち切って源戸は教室を出て行った。トイレでも我慢しているかのような勢いだった。
「次の勝負も期待してるからね、小宮さん」
近くの席に座っていた友人が見かねたのか、声をかけてくれる。
「ありがと。でも勝負じゃないよ」
「源戸君があれだけはりきってても、学年一の秀才の座は譲れないよね」
「ま、まあ」
学年一の秀才。そう呼ばれるのには未だに慣れない。
勉強は昔からできた。けれど、それで得るものといえば、内申点と大人の信頼。年頃の少女にとって、最も要するものではない。
次の授業科目は物理学だ。実験室に移動する必要がある。
「ねえ」
教材を持って教室を出たところで、誰かに呼び止められた小宮は、足を止めて振り向く。腕を組んで仁王立ちした、化粧の濃い女子生徒が三人、小宮を容赦なく睨み付けていた。いずれも、その皮膚色は膝頭から耳の先まで見るからに厳めしい褐色にまみれていた。
「あんたさぁ……なんなの?」
「え?」
「地味子のクセに、なんで男子と喋るワケ?」
またきた。小宮は心の中で重い溜め息を吐いた。
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