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こればかりは、流石の小宮も慣れていた。
勉強ができるということは、他人よりも優れている確率が高い。人間には、無意識に、自分よりも有能な人間を排除しようとする意思が働く。小宮はこれを、充分に理解していた。
「あんたみたいな地味子は、源戸とは釣り合わないし」
「ちょっと成績いいからって調子ノってんじゃねーよ」
言いたいことだけを吐き出した褐色肌の女子生徒たちは、すれ違いざまに、小宮の肩に自分の肩をぶつけて去って行った。
小宮は大して気にもせず、肩に付いた埃を手で軽く払う。教室内にはもう誰もいない。誰も目撃者などいない。先生ですら見てみぬふりをするくらいだ。かといって、口先は達者な方の小宮でも告発する気にはならない。
「小宮さん? 大丈夫だった?」
「サキちゃん」
先ほどの、源戸との勝負をそそのかしていた友人が、心配そうに小宮に駆け寄ってきた。
「あの三人にまた何か言われたんだね。気になって戻ってきちゃった」
「ありがとう。私は大丈夫」
事実だった。
「そ、そう? それならよかった」
友人は、あっけらかんとしている小宮を見て安心したようだった。
「小宮さんって、意外とメンタル強いんだね」
「いつもケアは欠かさないから」
小宮の冗談に、友人は笑った。
「ほら、早く行こ? 遅刻しちゃう」
「うん」
他人より優れていようが劣っていようが、小宮にとっては些細な問題だった。こうして、自分を分かってくれている友達がいるだけでいい。これ以上、何かを望むのは贅沢な気がする。
友人とたわいないもない世間話をしながら、小宮は教室を出た。
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