KISMET

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KISMET

コツン…コツン… 誰かが窓に小石を投げた。 こんな時間に誰だろう…。 読んでいた本に栞を挟むと、椅子から立ち上がり窓の外を覗く。 「由良(ゆら)…」 由良が私に手招きをする。 どうしたんだろう、携帯で連絡くれればいいのに…。 足音を忍ばせ階段を降り、玄関の鍵をカチャリと開け、そっとドアを開けて静かに閉めた。 「どうしたの?携帯は?」 「電池切れーっ。それより聞いて聞いて!チケット取れたのーっ!!」 「えっ?誰の?」 「タナトスのーっ!!」 タナトスとは、イギリスの超人気ロックバンド。 日本にツアーで来る事が決まっているけど、まさかチケットが取れるなんて思いもしなかった。 「嘘でしょ…チケット完売だったじゃん。」 「オークションで落としたの!!」 「はあっ?いくら?」 「…ご、58,000…円…」 「由良ってバカ?そんな法外な値段!!」 「でねっ、でねっ、梨緒(りお)お金貸して!」 由良は私の前で手を合わせて拝む。 「むーりー!!」 呆れ顔で由良を睨む。 「すっごい高いけど…すっごい良い席なの!前から2列目!!」 「嘘っ!」 「だからお願いっ!梨緒しか頼める人いないのーっ!!」 由良は私の両手を握り締めて涙目で見つめてくる。 …そんな顔されてもー…。 由良とは中学からの付き合いで、困ると必ず頼ってくる。 頼られる事は嫌いじゃないからいいけど…お金貸すのはいい気分じゃない。 でもタナトスのチケット… しかも2列目は凄い…。 大きくため息をつく。 「二万円だけなら…」 「本当っ?マジで?あぁん、心の友よーっ!!」 由良は私の手をブンブン振って大喜び。 はぁ…今月金欠なのにー。 またバイト増やさなきゃ…。 「残りはお母さんに頼んでみる。ありがとう!梨緒ぉっ。」 由良は手を大きく振ると自転車に乗って走り去って行った。 「ったく…。」
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