第3曲

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 もとから同性が好きだったわけじゃない。  絶対にちがう。  まして、自分の倍以上も年上の男なんかを?  なんでもノーマルなのがいいと思ってきた。  いや、ノーマルじゃなければいけない、そんな風に、あえて自分に言い聞かせて生きてきた。  まがりなりにも、ピアニストと名乗る者を目指している以上。  ピアニストを自負するには、格調高く、高貴でなくてはいけないはずじゃないか?  周囲からいかにも高尚そうに見られる職業なのだから。  おそらく世間一般では、そう思われているはずだ。  それで、人と異なったり奇抜だと思われるようなことは、まだ子供のころから、自然と避けてきた気がする。    それが、アルパチーノ氏、いや、S氏だけが、なぜ避けられなかったのか。  どうして、あんなにも……。  わからない。  いくら考えても、釈然としない。
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