第1曲

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 アル・パチーノという名の渋い男優がいるね。  ゴッド・ファーザーは名演だった。  マフィアのドンである主人公の役で、当然、血も涙もない男のわけだった。    それなのに、長編映画のラストに近いシーンでは、身内の死に身も世もなく泣き叫ぶさまを惜しげもなく見せつける。  どうしようもなく人間的でむしろ幼い子供みたいで……ひどく胸を打たれたものだ。  その、昔から大好きで惚れ込んでいた、鬼才の男優に、その人はほんとうによく似ていた。   仕立てのいい、上質なスーツを着こなしているところなんかも、なんだか妙にそっくりな雰囲気だった。    日本人にしては彫りの深い顔立ちも、秀でた広い額に落ちかかっている、まっすぐな黒髪もすごく似ている。  そして、ドンに負けないくらいの、迫力もオーラも持ち合わせていると感じた。  いったい何者なんだ?    そのとき、僕は、いつのまにか、その人物に見惚れていたらしい。  
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