第2曲 

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 思案しているところへ、S氏がさりげなく申し出た。    「失礼ながら、一日につき、5万ずつ差し上げたいと思っています」 「え!」  思わず叫んでいた。  5万だと?  まさか。聞きまちがいか?   思わず目を見開いてしまったのだろう。  S氏が柔らかく微笑み、うなずいてみせた。  そのまなざしが、なぜかとても純粋で深くなったように僕には思えたのだが。  気のせいだろうか。  そう、まるで、はにかんでいるかのように。 「君の演奏には、それだけの価値が十分にあると思います。いや、もしかしたら、これではまだ少なすぎるということになるかもしれない。 そのときにはまた、妥当な額をご相談させてもらおうと思います。まずは、いろいろと弾いてみていただいてから……。さっそく今週末から、お越しいただけませんか? ぜひ」  なんだか……。  ただ、呆然とうなずいてみせることしかできなかった。  立ちくらみのように頭がクラクラするのを必死に抑えるので精いっぱいだ。  真正面から見つめてくるS氏の眼差しに、嘘は見えないようだったけれど。  その言葉を信じていいのだろうか。  いやいや、とても、そんなわけにはいかないだろう。  ただの買い被りではないのか?  たった一度、演奏を聴いただけなのに。  いきなりそこまで入れ込めるなんて。  よほどの酔狂か物好きとしか思えない……  そう思うのが普通だろう。  今では、シニックとかなんとかいわれる僕だって、まだまだ、その時は純粋だったはずだから。
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