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俺がその通信を受けて、ロシアから北方領土を通り、北部第一シェルターへとやってきた数日前、そこは跡すら残っていなかった。ただ一つ見つかったのは、後世に状況を伝えようと残していた一冊のメモ帳だけだ。
「大阪か……ずいぶん見ない内に廃墟になったな」
そして、今、俺は大阪へとやって来ていた。ロシアから連れてきた少女と共に……。
「ツバサさん。今ようやくロシア国防長との通信が繋がりました、です、Da-」
「よし、代われ」
言い、少女から通信機を受け取る。
「こちらツバサ。目的地へと到着致しました」
『――よし、ではやる事は分かっているな』
返答として、低い声が返ってきた。名を聞かずとも知れる俺の父だ。
「Da、誰一人として感染者を殺す事なく、ガスの発生源を破壊しろ、ですね。こいつがいれば問題なく出来ましょうよ」
ちらっと、横で欠伸をしている少女を見る。
『その子もまだ実験段階だ。ウイルス濃度の高い発生源近くに行けば、殺人衝動に駆られる恐れもある。十分に気をつけろ』
「Pustyak、大丈夫ですよ。そうなっても大丈夫なように俺がいるんですから」
『……頼んだぞ』
通信が切れる。向こう、ロシア連邦とて悠長に話している暇はないのだ。明確に言うと、未だ各国は対応策が見つかってなく、殺す事の出来ない少女に成す術ない状況である。
呑気に蝶を追いかけている少女を見ていると、こちらはまだ平和な方だと思えてくる。
「リューナ、遊んでないでそろそろ行くぞ」
「ツバサさん、日本の蝶はロシアの蝶より小さくて、捕まえづらい、です、Da-」
蝶と遊んでいる、と言うより蝶に遊ばれているリューナ。
「ほらっ、遊んでないで、行くぞ」
「Da-」
深く帽子を被り、俺達はその場を後にした。
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