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うちの演劇部では、お話だけを書くための、いわゆるシナリオ要員という人材がいないので、脚本は、部員達がそれぞれ好きに書いてきたものを提出する事になっている。
演劇部の部室では、今まさにその大会の為に作り上げた脚本選びの真っ最中だった。
リメイクの仕方は、基本的に桃太郎のストーリーに沿ったものであれば、時間軸が違ったり、主人公がおじいさんだったり、犬や、雉や、猿でもかまわない。
つまり、意外と自由なのだ。
一通りみんが作ってきた脚本には目を通してみたけど、それぞれ個性があってなかなか面白いとあたしは感心していたところだった。
「だから、やっぱり戦闘ものでいくべきだろ。桃太郎だよ? 刀を使って、鬼を派手に倒すのが一番の見せ所だろ」
おじいさんが主人公の脚本を書いてきた戸田くんが、暑苦しいほどの熱弁を繰り広げている。
戸田くんが書いてきた脚本は、桃太郎を育てたはずのおじいさんが実は悪者で、鬼と結託をして村の宝物を奪っていたというダークストーリーだ。
おじいさんが鬼を従わせるところが魅力的な部分であり、他の脚本にはない戦闘シーンが盛り込まれていて、何よりも派手なのが売りだ。
その圧倒的な熱意を持った戸田くんに、部員のみんなが押されぎみになる中、部長の鬼灯(ほおずき)くんが口を開いた。
「戸田。予算的に無理。却下ね」
その一言で、あっさりと戸田君の熱弁が打ち切られた。
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