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…なんで、わざわざついてきたんだろうこの人。
鍵を返すくらいひとりで充分だから、先に帰って全然良かったのに…。
正面玄関を出ると、相変わらずザーザーと降る雨のせいで湿気った空気が肌に触れる。
若干肌寒いなと思いながら、カバンの中から折りたたみ傘を取り出した。
「電車?」
隣で空を見上げながら、突然話し掛けてきた彼に目をやる。
「…うん。」
目は合わない。
「俺も。」
視線を前に戻し、勢いよく降る雨を眺めた。
春だというのに、こうして雨が降るとどんよりして季節感も全くなくなる。
新学期早々、風邪を引かないように気をつけなきゃと、今この状況でどうでもいいような事を思い浮かべながらも、やっぱり気になる隣の無表情。
「帰らないの?」
「………………。」
まさか、とは思ったけれど…。
鍵を返すのにわざわざ職員室までついてきたり、今こうして回りくどい聞き方で私に話し掛けてくるのは、全部全部、傘目当てだからか…。
無愛想なくせに、なんて図々しいんでしょう。
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