Transfiguration

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バイトが終わりバッグをロッカーから出すと外から雨の音が聞こえた。 「わ、相当降ってる…。」 持って来た傘を探すも…見つからない。 誰か間違えて持って行ったのかな…。 仕方ない駅まで走るか。 お店から一歩踏み出そうとしたら大きな傘を向けられる。 「えっ?」 「ご苦労さま、梨緒。」 「サイファ…どうして?」 フンワリと微笑むサイファに雨粒がポタポタと落ちる。 すぐに傘に入りサイファの方に傘を寄せる。 「サイファが濡れちゃう。」 「私は大丈夫ですから。人気のない場所ですぐに瞬間移動で帰りましょう。」 「わーい。」 私が微笑むとサイファと相合傘で歩き出した。 「寒くはないですか?」 「平気。」 サイファの肩が濡れている。私が傘を押し返すとサイファが私を抱きしめた。 「さ、サイファ?」 「少しだけ…このままで…」 サイファの胸に顔を埋めたまま動けない…。 「サイファ…」 「大丈夫です、傘に隠れて見えませんから。」 サイファが少し震えているように感じた。 「許して下さい、梨緒。貴女が足りなくて…」 「えっ?」 「私は貴女に触れないと力を失うようです。」 驚いてサイファを見つめた。 「貴女の下僕となったあの日から…私は貴女に触れられず、衰え始めてしまいました。」 「そんな…どうして今まで黙ってたの?」 「すみません。私はそれで朽ちても構わないと思っていたのですが…、もっと貴女のそばにいたくて欲張ってしまいました。」 「サイファ、とにかく帰ろう。瞬間移動…できる?」 「ええ、今少しだけ回復しましたから。その路地に入りましょう。」 少しよろめくサイファを支えて路地に入ると、サイファが傘を畳む。 「大丈夫?」 「ええ、行きますよ梨緒。…おいで。」 サイファの腕の中に包まれ、身体中が強烈な圧力に締め付けられる。 ふっと力が抜け、玄関に立つ二人。 サイファが傘立てに傘を戻すと、ぐらりとよろめいた。 「サイファっ!!」
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