Transfiguration

1/31
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ

Transfiguration

バイトが終わりバッグをロッカーから出すと外から雨の音が聞こえた。 「わ、相当降ってる…。」 持って来た傘を探すも…見つからない。 誰か間違えて持って行ったのかな…。 仕方ない駅まで走るか。 お店から一歩踏み出そうとしたら大きな傘を向けられる。 「えっ?」 「ご苦労さま、梨緒。」 「サイファ…どうして?」 フンワリと微笑むサイファに雨粒がポタポタと落ちる。 すぐに傘に入りサイファの方に傘を寄せる。 「サイファが濡れちゃう。」 「私は大丈夫ですから。人気のない場所ですぐに瞬間移動で帰りましょう。」 「わーい。」 私が微笑むとサイファと相合傘で歩き出した。 「寒くはないですか?」 「平気。」 サイファの肩が濡れている。私が傘を押し返すとサイファが私を抱きしめた。 「さ、サイファ?」 「少しだけ…このままで…」 サイファの胸に顔を埋めたまま動けない…。 「サイファ…」 「大丈夫です、傘に隠れて見えませんから。」 サイファが少し震えているように感じた。 「許して下さい、梨緒。貴女が足りなくて…」 「えっ?」 「私は貴女に触れないと力を失うようです。」 驚いてサイファを見つめた。 「貴女の下僕となったあの日から…私は貴女に触れられず、衰え始めてしまいました。」 「そんな…どうして今まで黙ってたの?」 「すみません。私はそれで朽ちても構わないと思っていたのですが…、もっと貴女のそばにいたくて欲張ってしまいました。」 「サイファ、とにかく帰ろう。瞬間移動…できる?」 「ええ、今少しだけ回復しましたから。その路地に入りましょう。」 少しよろめくサイファを支えて路地に入ると、サイファが傘を畳む。 「大丈夫?」 「ええ、行きますよ梨緒。…おいで。」 サイファの腕の中に包まれ、身体中が強烈な圧力に締め付けられる。 ふっと力が抜け、玄関に立つ二人。 サイファが傘立てに傘を戻すと、ぐらりとよろめいた。 「サイファっ!!」
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!