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「……」
姿を消したと見せかけ、ベランダで二人の様子を盗み見ていたサイファがため息をつくとふわりとベランダから路地へと降り立つ。
梨緒が…あの男の妻になる…。
こんなに私が愛しているのに、結局私は梨緒を取り戻せないのか。
やるせなさが胸に広がる。
私を必要と言ったのは…私への優しさだったのでしょうか。
街をあても無く彷徨い続け、疲れ果てたサイファが胸にそっと手をあてた。
「次に…生まれ変われるなら、私は梨緒と共に歩ける運命を望みます。梨緒が永遠にあの男の妻でいる限り…その願いさえも叶わないのですか…。」
夜明けの空に向ってポツリと呟くサイファ。
「サイファくん?」
振り返るとマルコシアスが空から降り立つ。
「……」
「…貴方の苦痛が少しでも和らぐ方法があるとしたら、それは梨緒さんと離れることです。」
「それが出来るなら…私は…」
「貴方の魂が欲する物は梨緒さんだけなのですね。梨緒さんに触れられなければ…朽ちる…。」
「堕天使マルコシアス、私を消してもらえませんか?」
サイファの真剣な眼差しにマルコシアスは首を振る。
「どうせ朽ちるなら梨緒のそばで…そう願っても、優しい梨緒は私を生き永らえさせるでしょう。」
「切ないですね。私も堕天してから愛した人間の女性がいました。ですが、私は彼女の魂を奪う事がどうしても出来ず…彼女は…天へと召されました。ジェイさんは…梨緒さんをどうするつもりでしょうか…。」
「魂を奪えば…永遠に彼女をそばに置けるのですか?」
「その通りです。堕天したばかりの貴方は知らないのですね。ですが…永遠にそばに置く為には、彼女の望む物を与え続けなければならないのです。魂の代わりに、エネルギーになる物、それを与え続けられなければ…衰え、朽ちるのです。カインさんは自分が集めた人間の魂をキョウカさんに与え続けました。カインさんが亡くなってからキョウカさんは何も望まず朽ちていきました。」
「与える物は人間の魂とは限らないという事ですか?」
「ええ。魂が欲する物を与えなければいけません。サイファくん、梨緒さんの魂を奪っても…梨緒さんを永遠にそばに置く事は出来ないと思いますよ。梨緒さんが望む物…わかりますよね?」
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