霧のあかり

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夜の霧の中を、私は車で走っていた。 ここらでは珍しい程の濃い霧。 速度も出せない。 街灯の明りが、うっすらと、ぼんやりと、宙に浮いている様子が妙に綺麗だった。 遠くの街灯の明りは、まるで、この世のものではない‘何か’に思えた。 奇妙だったのだ。 私が存在している、私が知っている、ものとは程遠いくらいに。 緑がかった霧が、ゆっくりと蠢いて私の車を飲み込んでいく。 異形のもののように。 音もなく、静かに、静かに、蠢く霧を見ていると、知らない世界へ連れて行かれようとしている感覚に陥った。 この世界とは違う世界へ。 ――ねぇ、ゆき。僕たちは何処へ行こうとしているんだろう―― 遠い記憶、誰かがそう言っていた。 あれは誰? ――「ねぇ、ゆき。僕たちは何処へ行こうとしているんだろう?」―― ――「まるで、僕たちは雨の中へ消えていくようだね」―― 遠い、遠い記憶。 きっと、思い出す事なんてできないのだろう。 だから、霧の中に私は飲み込まれてしまったのだろう。 これから先も、私は霧の中から抜け出せないのだろう。 ―終―
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