その二

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「ちょっ、ちょっと待ってください。寝藁を取り換えている途中で……」 「そんなことはどうでも良いのだ!」 「どっ、どうでもいいってそんな、汚いベッドで寝たくないでしょう、隊長もっ」  ぐいっと力強く引っ張られることに抵抗する。しかし小柄なユークよりも圧倒的に大柄隊長の力にはなかなか抗えない。 「それは別の者を呼ぶ! お前を呼んでいるのは、アスコルト長様なのだ!」  このアスコルトの兵士たちの最高責任者、それがアスコルト長という役職だった。その名を聞き、ユークは事の重大さに気づいてひどく焦って走り始めた。  隊長の案内に従い、とにかく脚を回した。 「お前、なにかしたのか!?」 「いっ、いえっ! 僕はなにも!」 「思い出せ直々の呼び出しだ、絶対になにかある!」  あれこれとこれまでのことを思い出し、適当に思いついたことを漏らした。 「ナルで誰かが乗ったエクルスを抜きました……あの丘で」  数日前のこと、いつものように芝の丘でナルを走らせていると、いきなり覆面で顔を隠した男(体格から推測)と、その愛馬であろうエクルスが現れた。そしてユークとナルを追い抜いた。
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