その二

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 挑まれていると感じた一人と一頭は、無意識に追いかけてしまった。  相手は速く、ユークは試行錯誤してきたことを活かして、ナルを押し(追っ)た。  すればナルも往年の走りを取り戻したかのように一完歩ずつ前に迫り、やがて抜き去ったのだった。勝利を確信したユークは鞭を掲げて抜き去った相手に勝ち誇る。  すると相手はエクルスを止め、またどこかへと走り去っていったのだった。 「お前、それ相手がまさか……」 「そうかもしれないです……っ」 「なんでそんなことをしたんだ!!」 「だっ、だっていきなり前を走られたら、抜きたくもなりますよ!」 「ええい、ライダーのようなことを言いよって!」  アスコルト長の待つ部屋の前にたどり着いた頃には、二人とも息が上がってしまっていた。だから扉をノックする前に深呼吸し、息と気持ちを整える。  ユークはもう嫌な未来しか待っていないと感じ、全身冷や汗まみれだった。運が良ければ不行跡除隊、悪ければ投獄、さらには処刑。もうすぐにでも逃げ出したいという気持ちがはやり、失神しそうになっていた。 「失礼します。アスコルト長殿、ユーク・バロチルーを連れてまいりました」  ノックしてから隊長が言う。心の準備が終わっていないユークは内心、なにをしてくれ
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